ひとりごと、ぶつぶつ

花だいこんに埋もれて

タキばあちゃんの小さな庭はいつも花が咲いている。年中花が絶えることがない。真冬でも風当たりの弱い場所を選んでひっそりと咲いている。町の花屋さんで売っているような立派な花ではない。どこにでもある野草だが、タキばあちゃんが植えたのでもない。自然に生えたというのも正確には正しくない。タキばあちゃんだけはその理由を知っている。だから、縁側に腰掛けて庭を眺めているときが至福の時なのである。

夜が白み始めて朝がやってくる頃になると、タキばあちゃんの庭はとても賑やかになる。ばあちゃんの朝食にあずかろうと近隣の小鳥たちが大勢で押しかけてくるからである。春から秋までは食事に事欠くことはないが、冬、あたりが銀世界に被われてしまうようなことがあればたちまち餓えることになる。そんな時、小鳥たちはタキばあちゃんの用意してくれる雑穀がなによりもありがたい。庭に草花の絶えることがない理由が分かっただろうか。それは小鳥たちがタキばあちゃんへのお礼の気持ちとして種を運んできた結果なのだ。

連れ合いに早くに先立たれ、残されたこの家に住んでからもう50年近くになる。一人息子は学校を出るとそのまま都会に就職し嫁ももらった。歳も歳で何事につけ心配だから、一緒に住もうと何度も言われているのだが、タキばあちゃんはまったくその気がない。確かに歳は取ったがひとの世話になるほど弱ってはいないつもりだったし、小鳥たちのさえずりを聞きながら季節の移ろいを眺めるゆったりとした時の流れが、決して都会では味わえないことが分っていたからだった。

仕事の忙しさを言い訳に、なかなか母のもとには帰らない息子の明夫が、朝のマンションのベランダに異様に群れ騒いでいる小鳥たちに気付いた。カーテンを開け放っているのに部屋の中が暗くなるほどの数だった。悪い予感がした。こういうのを虫の知らせというのだろうか、鳥たちだから鳥の知らせで、母の異変ではないかと気付いた明夫はすぐに電話したが応答がない。会社に欠勤の連絡をすると、すぐさま実家へ飛び帰った。

明夫が着いたとき、タキばあちゃんはいつものように戸袋を背に縁側に腰掛けて庭を見ていた。いや、見ていたように見えたが目は閉じていた。すでに心臓も鼓動を止めていた。今、何を見ているのだろうか。小鳥たちとともに大空を舞っているのだろうか。まことに幸せそうな微笑をたたえたまま事切れていたのだった。明夫は母が何を見ながら亡くなったのか知りたくて自分も同じように縁側に腰掛けて庭を眺めてみた。蓮華やたんぽぽが咲き乱れていた。菜の花がひときわ強い香りを漂わせていた。そのなかでもひときわ鮮やかな紫色の花に焦点を合わせようとして明夫は眩暈を感じた。花だいこんの群生だった。ふわりと離脱した意識のなかに母の微笑みがかいま見えた。終 癒しのための短いお話たちより

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by 892sun | 2012-09-23 07:59
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