ひとりごと、ぶつぶつ

種を蒔く男

昔、或る村に貧しいけれど、とても仲の良い夫婦が暮らしていました。しかし、なかなか子宝に恵まれず不満といえばそれだけが不満で、いつも神に子宝を授けて欲しいと祈っていました。そしてもうダメだろうと諦めかけていた頃、やっと男の赤ちゃんを授かり、大喜びしました。

日が経つにつれて、その子は喉に障害があって声を出せないことが分かりましたが、やっと授かった我が子ですから気にもせず、作太郎と名付けて可愛がりました。しかし、近所の子供たちからは苛められたり、仲間はずれにされることが多かったので、いつしか一人で遊ぶようになり、いつも森へ行って遊んでいるようでした。

成長するにつれ、父親と一緒に野良に出て働きました。いつしか親よりも仕事が出来るようになると、父親も畑仕事は息子に任せるようになりましたが、その頃から、この家族は村人の評判を呼ぶようになりました。作物の出来が他の農家よりも優れていることが知れ渡ったからです。

お米は大粒で光っていましたし、野菜は大きくて立派に育っていて、食べてもとても美味しいのです。きっと種が違うのだろうと、村人たちは種籾や、野菜の種を欲しがりましたので、作太郎は快く分けてあげましたが、村人たちが作物を収穫してみると、やっぱり以前と変わらずがっかりしました。

村の権力者の息子で欲深な男は、きっと場所のせいか、土の質が良いので、良いものが出来るの違いないと、自分の土地との交換を申し出ました。狭い作太郎の土地の倍以上もある面積でしたし、権力者の申し出を断るわけにもいかず、仕方なく交換しました。

交換したその年だけは、欲深男の作物は良く育ちましたが、1年2年と経つうちに他の畑と同じように戻ってしまったのです。新しい広い土地といっても、半分は斜面で稲作には向きませんでしたから、作太郎はそこに蜜柑の苗木を植えました。数年経つと、蜜柑がたわわに実り、おいしくて甘い蜜柑は飛ぶように売れました。残った畑で作った作物は、やはり見事に育っていました。土地の場所でも日当たりでも、土の質でもなかったのです。

そこで村人は作太郎が何か特別な肥料を与えたり、消毒をしたり、知られていない耕作方法をしているに違いないと聞きだそうとするのですが、何を聞いても首を横に振るばかりで教えてもらえません。読み書きの出来ない作太郎とは筆談もできません。そこで、村人は作太郎の農作業を365日観察することにしました。

1年間観察してみましたが、作太郎のやり方に特別なことは何もありませんでした。ただ作太郎は仕事熱心で、雨の日も風の日も、蓑を付けて畑を見回っていました。草取りさえしませんでしたから、雑草だらけの畑でしたが、それにもまして、虫の害にも負けずに作物は良く育ったのです。時々は誰もいないのに蹲って独り言を言ったり、頭を下げて礼を言っているようでしたが、誰に何を言っているのかは分かりません。声が出ないのですから。村人も真似をして田畑の見回りをするようになりましたので、多少は収穫も多くなりましたが、作太郎のようにはいきませんでした。

ただ、作太郎の様子をじっと見ていて、その謎を見破った者が一人います。それは村一番の器量良しと言われていたのでしたが、彼女も同じように唖でしたので、嫁には行けずにいた娘でした。二人は出会うと声を掛け合うことなくすぐに仲良くなり恋に落ちました。彼女も作太郎と同じ能力があったのです。

この秘密を彼女は誰にも言いませんでしたので、村人はきっと作太郎には神様が付いているのだということになり、作太郎に手を合わせて拝むような者も出る始末でした。豊年満作を願う村祭りには作太郎大明神として代々奉り挙げられることになりそうだったので、さすがに作太郎もそれだけは断りました。

その能力とは何だったのでしょうか。賢明なる読者諸氏にはもうお分かりでしょう。二人は声を発生出来ない植物や虫たちと会話することが出来たのです。作太郎は作物の気持ちが理解できたので、作物たちが何を欲しがっているか、何を願っているか毎日尋ねていたのです。そして自分の子供のように愛情をかけて育てていたのです。

二人のその後のことは言うまでもありません。長く幸せに暮らしましたとさ。おしまい。癒しのための短いお話たちより

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by 892sun | 2013-06-02 10:16
<< 君は天使を見たか・Little... 親の因果は子に報いない。 >>



この世の仕組み、本当の生き方はもう分かりましたか?地球は次元が変わります。準備は整っていますか?心霊研究家のつぶやきに耳を傾けてください。

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