ひとりごと、ぶつぶつ

二つの人生

下田次郎、新米の弁護士である。先輩弁護士事務所に雇われながら修行を積んでいるが、やっと回ってきたのが、子供の時からの親友だった高畑信吾の弁護人となったのは皮肉以外のなにものでもない。下田家と高畑家は遠い親戚であるばかりでなく、誕生日も近かったし、性格も顔つきも似ていたし、何よりも馬が合うというのだろか、仲が良かった。二人とも成績は良かったし、姿形も似ていたが、生活環境には雲泥の差があった。

高畑家は古くからの地主で、農地改革でほとんどの田地田畑は失ったが、今も隠然たる影響力を持ち、建設業を営みながら、政治にも口を出し、地元選出議員の後ろ盾になっていたから経済的には豊かで、高畑信吾は一人息子として大切の育てられた。有名私大を卒業すると、家督を相続して手広く事業を展開していた。金もあったし、イケメンだったから女性にはもてたが、未だ独身である。

下田家はいわば、高畑家の分家で、僅かばかりの農地を耕しながら農閑期には日雇い仕事を探すような貧しい家だったが、貧乏人の子沢山で、子宝だけには恵まれた。次郎は名前の如く、次男であったが、兄がそうしたように、高校、大学とは定時制に進んだ。弁護士の国家資格を取ったのも30歳になろうかという頃の遅咲きである。信吾のことは羨ましいとは思ったが、恋に憂き身をやつしている暇がなかった。こちらも独身である。

対照的な二人の人生だが、この二人、本人たちも知らないが、実は双子なのである。高畑の家では跡取りが出来なくて困っていた。最初の嫁は3年たっても妊娠の兆候が出ないので、郷里に帰され再度嫁をもらったが、それでも子供が授からなくて弱っていたところへ、分家の下田の家の嫁がまた妊娠したと聞き、使いを出した。もし男子ならば、うちの養子にくれないかという相談である。下田家ではそれでなくても生活が苦しいし、高畑家の人間ともなれば、うちで育つよりは幸せになれるだろうと、喜んで承諾した。

生まれたのは双子の男子だったから、高畑の嫁は郷里で自分が産んだような顔をして赤子を連れ帰り、養子としてではなく、実子として出生届けを出した。この事実を知っているのは双方の親と取り上げた産婦人科の医師、そして読者のみである。同じ腹から生まれたのに、育てる環境が違えば、まったく違った人生を歩くことになるのである。

高畑信吾が訴えられているのは、親から引き継いだ事業に失敗したためである。親の信用が築き上げてきたものを自分の実力と勘違いして、事業を広げすぎた。景気には波がある。訪れた不況の波を乗り越えることが出来ずに不渡りを出して、倒産した。会社更生法が適用され、全ての財産を失ったが、まだいくつかの訴訟が残されている。その弁護を次郎が担当することになったのである。

人生とは不思議なものである。二つの人生を較べることは簡単なことだが、これで二人の人生が終わったわけではない。これから始まるといってもいいのである。運命という糸に操られた人生ではなく、自分で選択する人生である。二人の未来に幸せあれ。 終  癒しのための短いお話たちより

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by 892sun | 2013-06-16 11:47
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