ひとりごと、ぶつぶつ

第28話 鳥の知らせ


タキばあちゃんの小さな庭はいつも花が咲いている。年中花が絶えることがない。真冬でも風当たりの弱い場所を選んでひっそりと咲いている。町の花屋さんで売っているような立派な花ではない。どこにでもある野草だが、タキばあちゃんが植えたのでもない。自然に生えたというのも正確には正しくない。タキばあちゃんだけはその理由を知っている。だから、縁側に腰掛けて庭を眺めているときが至福の時なのである。

夜が白み始めて朝がやってくる頃になると、タキばあちゃんの庭はとても賑やかになる。ばあちゃんの朝食にあずかろうと近隣の小鳥たちが大勢で押しかけてくるからである。春から秋までは食事に事欠くことはないが、冬、あたりが銀世界に被われてしまうようなことがあればたちまち餓えることになる。そんな時、小鳥たちはタキばあちゃんの用意してくれる雑穀がなによりもありがたい。庭に草花の絶えることがない理由が分かっただろうか。それは小鳥たちがタキばあちゃんへのお礼の気持ちとして種を運んできた結果なのだ。

連れ合いに早くに先立たれ、残されたこの家に住んでからもう50年近くになる。一人息子は学校を出るとそのまま都会に就職し嫁ももらった。歳も歳で何事につけ心配だから、一緒に住もうと何度も言われているのだが、タキばあちゃんはまったくその気がない。確かに歳は取ったがひとの世話になるほど弱ってはいないつもりだったし、小鳥たちのざわめきを聞きながら季節の移ろいを眺めるゆったりとした時の流れが、決して都会では味わえないことが分っていたからだった。

仕事の忙しさを言い訳に、なかなか母のもとには帰らない息子の明夫が、朝のマンションのベランダに異様に群れ騒いでいる小鳥たちに気付いた。カーテンを開け放っているのに部屋の中が暗くなるほどの数だった。悪い予感がした。こういうのを虫の知らせというのだろうか、鳥たちだから鳥の知らせで、母の異変ではないかと気付いた明夫はすぐに電話したが応答がない。会社に欠勤の連絡をすると、すぐさま実家へ飛び帰った。

明夫が着いたとき、タキばあちゃんはいつものように戸袋を背に縁側に腰掛けて庭を見ていた。いや、見ていたように見えたが目は閉じていた。すでに心臓も鼓動を止めていた。今、何を見ているのだろうか。小鳥たちとともに大空を舞っているのだろうか。まことに幸せそうな微笑をたたえたまま事切れていたのだった。明夫は母が何を見ながら亡くなったのか知りたくて自分も同じように縁側に腰掛けて庭を眺めてみた。蓮華やたんぽぽが咲き乱れていた。菜の花がひときわ強い香りを漂わせていた。そのなかでもひときわ鮮やかな紫色の花に焦点を合わせようとして明夫は眩暈を感じた。諸葛菜の群が咲き乱れていた。ふわりと離脱した意識のなかに母のほほえみがかいま見えた。終

         ご感想をお待ちしております。
第28話 鳥の知らせ_b0034892_15143896.jpg

秋色に染まる恋人たち1
by 892sun | 2007-11-20 15:14
<< 第29話 小さな聖者 第27話 長寿の薬 >>



この世の仕組み、本当の生き方はもう分かりましたか?地球は次元が変わります。準備は整っていますか?心霊研究家のつぶやきに耳を傾けてください。

by 892sun
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
以前の記事
2016年 12月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 11月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2004年 09月
home page
ライフログ
その他のジャンル
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧