神の恵みのクリスマス spiritual short short stores 7
ちらほらと、ためらいがちに初雪が舞い降りてきた。クリスマス前日のことである。 大きな森の前に1軒の小さな家が立っている。静寂に包まれた背後の森からは、ひっそりとした息遣いが聞こえてきそうだ。 その静けさと平和を乱すのは、ときおり姿を現す2匹の野ウサギくらいだ。ウサギたちは朽ちた落ち葉の中で何かを探しているのだろう。
家の中ではひとりの男が、まるで何かを待っているように窓から外を見つめている。男のほかにこの小さな部屋にはふたりの少女がいる。15歳と17歳になる彼の娘が本を読んでいた。 妹の名前はメアリー、姉はレズリーという。 ふたりとも夢見がちなタイプで、空想など何の役にも立たないと考えている木こりの父親とはまったく違っている。 父親は、娘たちの本を読んでいる姿に苛立ちを覚えることが少なくない。 こんな感情を抱く一番の理由は、ほとんど字が読めないからではなく、自分の稼ぎでは本は高価すぎてあまり買ってやれないからだ。 ときおりレズリーは「私たちが読むのは安い古本ばかりなのよ」と不満の気持ちを口にしてみるが、本など読まない木こりの父親にはあまり効果はなかった。 「父さん、夕方の散歩に行きたいの。ねぇ、行ってもいい?」レズリーは聞いてみた。 父親は苛立ちをあらわにした低い声で何かつぶやいたが、結局は娘の願いを聞き入れた。 その間にも外はかなりの雪になっていたので、ふたりはしっかり身支度をした。そして、道に迷わないように行き慣れた森沿いの小道を歩くことにした。 夕方の雪ともなれば、経験豊かな猟師にとってさえ森の中に入るのは危険なことである。 雪が降るにつれ、夕暮れの森はだんだん明るくなっていった。 メアリーとレズリーは無言のまま歩き続けた。 ふたりとも考えることは同じである。それは1年前に高熱が原因で亡くなった母親のことだった。 そんな事情を考えれば、夕暮れに娘たちを散歩に出すことをためらう父親の気持ちももっともなのだ。 ふたりが家からかなり離れたところまで来たとき、風がにわかに勢いを増した。 この急激な天候の変化にふたりは動揺した。というのもこれが何を意味するのかよくわかっていたからだ。姉妹はお互いに顔を見合わせたが言葉を口にする必要はなかった。ただちに引き返したが、間もなくそれも不可能になった。すぐに道に迷ってしまったからである。 レズリーは恐怖にかられて泣き出した。 メアリーは姉をなぐさめようとした。「落ち着くのよ、レズリー。この木のそばで少し待ちましょう」と言いながら姉を抱きよせた。 風は狂ったように激しくなり、雪は後から後からとめどもなく降ってくる。まもなく雪はふたりの膝の辺りまで積もってきた。 レズリーは声を抑えて泣き、メアリーは祈りを唱えた。と、その瞬間ぱっと辺りが明るくなった。あまりの眩しさにふたりは思わず目を覆った。 そのとき、「怖がらなくてもいいのよ」と優しい声が聞こえてきた。その声に聞き覚えのあった姉妹ははっとして顔を上げた。 レズリーは驚きで言葉を失ったが、メアリーにはこれが現実に起きていることだと感じられた。 「母さん、戻ってきてくれたの!」メアリーは叫んだ。 「ええ。でも、ほんのしばらくだけ。これから先はふたりとも自分たちだけの力で、こちらの世界で生きて行かなければならないのよ」と、母は「こちらの世界で」に力を込めて言った。 母の姿を包んでいた燦然と輝く白い光は、眩しさが和らいで別の色に変わっていった。 「こちらの世界で?それじゃ母さん、私たちが住むこの星のような世界がもっと他にあるの?」この不思議な出来事の衝撃から立ち直ったレズリーが尋ねた。 「そうよ、私の大切なレズリー。他にもたくさんあるわ。でも一番大切なことはね、そこでは毎日が恵みのクリスマスだということなの……」そう言いながら、母は1粒の涙を拭った。 レズリーもこれ以上感情を抑えることができなくなり、大声で泣き出した。 そのとき奇跡が起きた。彼女の目からこぼれる涙が、美しい真珠に変わったのだ。レズリーはそれを手のひらで受け止めた。メアリーは不思議そうなまなざしで母を見上げた。その姿は、今や柔らかな光の広がりとなっていた。「本当に…… 母さんなのね?」とメアリーはすがるように尋ねた。 「そうよ、メアリー。母さんよ。 でも、今起こっていることは母さんの力ではないの。神様にしかおできにならないことなのよ。この出来事には特別な意味があるわ。神様が人間への愛を示してくださっているのよ。この真珠で、飢えや貧しさ、苦しみが少し救われるわ。人はみな、とても素晴らしい行いをする機会を与えられているのよ。愛と平和を世界中に広めるという行いのね。 明日は、クリスマス。あなたの涙はいつもの涙に戻るわ。みなが自分の力で神様の大いなる計画に携わらなければならないからよ。 お金は単なる道具でしかないわ。心から行動しなくては……」 母の姿が消え始めてもメアリーとレズリーは悲しくなかった。今までで一番素敵なクリスマスメッセージをもらったので、とても幸せだった。真珠の使い道を考えるのに時間はかからなかった。ひとつは父に、残りは貧しい人たちに渡すつもりだ。母からもっと価値のあるものをもらったふたりは、ひとつも欲しいとは思わなかったのだ。終 J.ルイネンブルグ作 翻訳者 Tabitha りい アメリアという翻訳者ネットワークが主催している、スピリチュアル・エンデバー翻訳プロジェクトサイトから、会員の方が翻訳された心温まるスピリチュアルな短いお話を再掲します。過去にも載せたものですが、読んでいない方も多いと思いますので、再掲です。読んだことのある方も心温まるお話をもう一度味わってみてください。原文はこちらです。 ブログ・ランキングに登録しています。お読みになってよかったと思われたら、バナーのクリックをお願い致します。
by 892sun
| 2012-02-07 09:45
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