ひとりごと、ぶつぶつ

最後のひとり Spiritual short short stores 10

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老人は前かがみになり、わずかに首をかしげて考えていた。自分はどこにいるのだろう。これはすべて夢なのか、それとも死んでしまったのだろうか。

老人は長年、古代の沼のそばにある暗い洞窟にひとりで暮らしていたはずだった。ところが今は、大きなホールの中で、あたりを見回しているのだ。ホールはろうそくの光だけで照らされているのに影はなく、すべてがその内側からの透き通った光で満ちあふれているように見えた。目を細めてまわりの人々を観察してみると、彼らもまた内なる光で輝いているように見えた。

すると、そのうちのひとりが老人に微笑みかけてきた。だが、老人は眉をひそめ、あごひげを掻いた。どうして自分が特別な客としてもてなされているのか、わからなかったのだ。また、どういう意味か知らないが、あなたが最後のひとりなのだと人々は老人に言うのだ。

しかし老人は、遠い昔のあのときに自分がしたことが発覚するのを恐れ、彼らと口をきかなかった。すると、突然ホールが静まりかえり、大理石のアーチから真っ白な髪をした女性が白いローブをなびかせて歩いてきた。彼女はゆっくりと、老人とは反対側のホールの端にある自分の椅子に座った。それは老人が腰掛けているのとよく似た、玉座のような椅子だった。

「ようこそ、みなさん」

白い髪の女性の声は、クリスタルのようにホール全体に響き渡った。すると、彼女は老人の方を向いて言った。「私たちは長いことずっとあなたを探していました。そしてついにあなたを見つけたのです。ようこそいらっしゃいました」

老人は白い髪の女性をじっと見つめ返した。女性は想像以上に年をとっていたが、ほのかなろうそくの明かりの中では信じられないほど若く美しく見えた。以前その女性に会ったことがあるかは思い出せなかったが、彼女は老人の奥深くに眠る、忘れられていた記憶を呼び覚ました。

「今日はお祝いの日です」白い髪の女性は続けた。「いつものように、あのときの話でお祝いを始めましょう」 そう言うと、彼女は間をおいて話し始めた。「はるか昔のあの頃、人間は、自らの暗いさなぎを今にも脱ぎ捨てようとしている蝶のようなものでした。でも、住み慣れた世界を去るのを怖がる、臆病な蝶だったのです。

当時、前へ進むのに必要なすべてを、人間は持っていました。でも、彼らは古いやり方にしがみついたのです。恐れのあまり、人間は古い信念にしがみついたのでした。「愛と共に生きるあなた方には、恐れの感情に深くとらわれることなど想像できないかもしれません。しかし、当時人間は恐れと共に生きていました。この恐れこそ、人間の心の解放を阻んでいるものだったのです。恐れで充満した心には、もはや愛を生み出す余地などありません。

そして恐れを取り去るために、人間はある出来事へと引き寄せられていきました。それは、人間自身が最も恐れていたもの――世界の終わりでした。世界の終わりは、戦争によってもたらされるものと誰もが思っていましたが、実際にはすべての戦争を終結させるものとなりました。 当時、海は人間の持つ恐れの感情に汚染され、死にかけていました」

老人は身を乗り出した。当時のことを知っていたからだ。それは彼の時代のこと。海を死に追いやったのは、恐れなどではなかった。「海が死にかけていたときのことを知っている」彼は叫び出したい衝動に駆られた。「海に流される工業排水のせいで、海に住むすべての生き物、ほとんど目に見えないようなプランクトンまで死にかけていることが科学者の調査で分かったんだ。

さらに酸素の大部分は森林ではなく、プランクトンというちっぽけな生物が吐き出しているものだということも分かった。これは世界にとって衝撃的な事実だった。何しろ、プランクトンが死んでしまったら、森の奥深くに住むわずかな種を除いて、呼吸をする生き物はひとつ残らず死んでしまうことになるのだから。科学者の予測では、我々に残された時間はあと2年しかなかった」

老人は立ち上がってこれらのことを叫びたかったが、できなかった。彼は恐れていたのだ。自分がしたことを皆に知られてしまう、と。

白い髪の女性は続けた。「世界の国々を結束させたのは、恐れの感情でした。当時、世界をひとつにできるものは、それしかなかったのです。2年後にひとり残らず死んでしまうのなら、戦うことに何の意味があるでしょう?そこで世界中の国が集まり、昼も夜もなく連日の議論を重ねた結果、海を救う任務にあたる4人のリーダーが選ばれました」

「まず、4人のリーダーはあらゆる国から専門家を集め、問題に取り組ませました。それから、飢餓に苦しむすべての地域に食糧を供給するよう指示しました。これによって、人々は飢えに脅かされることがなくなりました。しかし、4人の取り組みで最も注目すべきことは、地球上のすべての人に、実際に何が起きているのかを分かるようにしたことでした。

すべての人に真実を知らせること――これは、世界中にはびこる恐れの連鎖を断ち切るための最初の一歩でした。4人は、離れた場所にいてもお互いに相手を見たり聞いたりできる装置を使って、これを実現しました」

老人は白い髪の女性が言ったテレビの描写に思わず微笑んだ。そして当時の様子を思い出した。世界中の家庭に1台ずつテレビが支給され、皆決まった時間になると、瀕死の海を救う薬が発見されたかどうかを確かめていた。とうとう残りあと14ヵ月に迫ったころ、リーダーたちは毒性を中和する可能性のある化学物質が見つかったと発表した。

老人はそのときのことをはっきりと思い出した。連日連夜、人々は海にまくのに十分な量の化学物質を作るために働いていた。懸命に働きながらも、皆楽しんでいるように見えた。あのときは、見知らぬ者同士でも、仕事の手を休めては互いに話をしたものだった。そして、運命の日がやってきた。化学物質を積み込んだ無数の船が沖へ向かった。

. しかしその後、効果が現われるかどうか何週間も待たなければならなかった。そして老人が22歳を迎えたその日、結果が発表された。海は解毒されていなかった。計画は失敗に終わったのだ。22歳の彼の人生はスタートを切ったばかりだったが、すべてはこれで終わりだった。老人は当時のことを思い出すと、こぶしを強く握りしめた。

そして、あのときの失敗が目の前にいるこの白い髪の女性のせいであるかのように、彼女をじっと見つめた。しかし女性は話を続けた。「世界の国々は海を救うことができませんでした。しかしそれは、本当の失敗ではありませんでした。ただ『失敗したように見えただけ』なのです。つまり、世界中が争うことを止め、戦争が終焉を迎えたこと、それこそが真の成功だったのです!」

老人は女性をじっと見つめた。彼は実際に体験したので、当時のことをよく知っていた。海を救うプロジェクトは失敗し、人々は死に直面していたのだ。老人は、白い髪の女性が続けて話しているのを、信じられない思いで聞いていた。

「世界中の人々はショックを受け、怒りました。皆一生懸命努力したにもかかわらず、それでもまだ、自分たちは失敗してしまったのだと思い込んでいたのです。しかし、世界の歴史上初めて、地球に住む人々が1つの目的に向けて協力し合った、それこそが真実だったのです。今や人々は、お互いを信頼していました。次の段階へ進む準備ができていたのです」

老人は白い髪の女性を険悪な表情で見つめた。そして4人のリーダーたちが、地球にはあと5ヵ月分の酸素しか残っていないと発表したときのことを思い出した。何か予期せぬことが起こる可能性について論じていたのだ。それは、人間の体が進化して、酸素がなくても生きていけるようになるかもしれない、というものだった。それはまったくばかげた考えだったのを、老人は知っていた。まるで「違うと言うなら説明してみろ」と言わんばかりに、老人は白い髪の女性をにらみつけた。

白い髪の女性は老人に向かって微笑んだ。そしてどういうわけか、彼は突然、リーダーのひとりが女性であったことを思い出した。彼女は癌の治療法を発見し、世界中から賞賛されていた。 1人のレポーターが「世界の苦境を救うゴッドマザー」と呼び、それ以来親しみを込めてただゴッドマザーとして知られていた白い髪の女性。シニアメンバーだった彼女は、4人のリーダーの中で最後に話した。

彼女がかつて話した言葉が、老人の頭に浮かんだ。「道はまだひとつ残されています。わたしたちが変わるのです。あなた方の大半は、今の自分と違う何かに変わることなど、実際には無理だという思いにとらわれているようですが、そんなことはありません」

「けれど、まず私たちは古い信念を捨て去らなければなりません。私たちそれぞれが、起こったことに対して責任があるという事実を受け入れる必要があります。お互いを非難してはなりません」

老人は、自分がしたことなど考えたくもなかった。そして考えを他に逸らせようとした。しかし、彼は白い髪の女性の言葉で引き戻された。「その最後の数ヵ月が人類の歴史で最も重要な時間だったのです。海洋を破壊し、世界を汚染していたのは自らの恐怖だということを、人々は理解し始めたのです。徳のある人たちでさえ、自分たちも愛よりむしろ恐れから行動していたことに気づき始めました」

「けれども、史上最も暗黒なときでさえ、人類は立派な行いができました。世界中の人々が、ゴッドマザーにメッセージを送り始めたのです。『子供たちを救う道を何とかして見つけてください。子供たちは、若くて恐れを知らず、古い習慣に縛られていません。彼らに不可能は無いのです。子供たちなら、きっと変えることができます。たぶん、森の奥深くには、彼らが生きるのに十分な酸素があるでしょう。少なくとも試してみることができるくらいは。子供たちを救う道を何とかして見つけてください』そこには、自分や家族の枠を超えて世界中に広まった思いやりの気持ちがありました。それは、蝶がさなぎから飛び立つ準備ができているという印でした」

白い髪の女性は話すのをやめて、長いこと老人をじっと見詰めた。彼は今にもホールから逃げ出してしまいそうなくらい、取り乱して見えた。白い髪の女性は、今老人に手を差し伸べないと、永遠に彼を失ってしまうと悟った。彼女は、老人を話に引き込む危険を冒さなければならなかった。

「そこで、子供たちを森へ送り出しました。森にはまだ多少なりとも大きな古い木々があり、子供たちが生き延びるのに十分な酸素がありそうだったからです。子供たちのグループには、それぞれ一人ずつ屈強な若者を同行させました。愛にあふれた、恐れを知らない若者、子供たちを守ると約束して選ばれた若者です」

老人の頭の中に、ある言葉が何度も襲いかかってきた。やめてくれ、もうやめてくれ!

「そして今夜、遠い昔に子供たちを守るために送り出された若者のひとりが、私たちと共にいらっしゃいます。あの方が、今夜のお客様です!」全員が老人のほうを振り返って見た。老人の頭の中は、「うそだ。そんなのうそだ」という言葉ではちきれそうだった。

老人は思わず立ち上がり、全員に向かって叫んでいた。「うそだ!」 そして彼は、自分がやったことを今ここで話さなければならない、と悟った。「確かに、私は子供たちを守るために送り出された若者のひとりでした。でも、恐れを知らないわけでも、愛にあふれているわけでもなかった。怖かったから、森に行ったのです。子供たちのことなんてどうでもよかった。自分が死にたくないだけだった。おわかりいただけますか?!」

「それに、私は選ばれたんじゃない。頼み込んだのです。どうか自分に行かせてくれと。そして、あの奇妙な日が森に訪れました。なにもかもが、目もくらむような光に満たされました。とてつもなく強烈な光です。なにか恐ろしい大惨事が起きて、その爆発の光に違いなかった。私は逃げ出しました。そうです。子供たちを残して私は逃げ、洞窟に隠れたのです。それ以来、ずっと洞窟で暮らしてきました。子供たちがどうなったのか、私は知りません」

ふと、奇妙な考えが老人の心に浮かんだ。ここで自分を見つめているのは、成長したあのときの子供たちだ。自分を裁くために戻ってきたのだ。「そうなのです」老人の言葉はゆっくりと、途切れがちになった。「私は、あなたたちを置き去りにしました。あの目もくらむような光の中で、犠牲になることを知りながら…… 私は自分のことしか考えていなかった。恐れでいっぱいだった。 だから逃げたのです。違う行動を取れたなら、どんなによかったことか」

老人は椅子に座り込み、ぼんやりと床を見つめた。恥ずかしさと、罪の意識、そして安堵から、涙がほほを伝って落ちた。今まで誰にも打ち明けたことがなかったのだ。白い髪の女性は老人が目を上げるのを待ち、やがてたずねた。

「あなたが洞窟に逃げ込んでから、何が起こったか知りたいですか?」老人はうなずいた。「私の話の結末を知りたいですか?」「ええ、ぜひ」と老人は身を乗り出して答えた。

「さて、子供たちを森に送り出した後、残された私たちは、運命を受け入れるより他に道がなくなりました。受け入れたら、恐れは消えてしまいました!私たちは、もはや恐れていませんでした、世界の終わりさえも。地球全体が深い平和に包まれました」

「そして終わりの日が来ました。皆が決められた時間にテレビの前に集まると、ゴッドマザーと呼ばれた女性の顔がそれぞれの画面に映し出されました。そして、彼女はこう言いました。

『あなた方の課題はほぼ終わったようなものです。戦争を平和に変え、恐れを信頼に一変させたのです。みなそれぞれよくやりました。次なるステップは単純すぎて、あっけにとられるかもしれません。共に協力し合い声をひとつにして、自分自身を内なるパワーに開放するだけなのですから』

『今あなたがたは、自分の存在についてのあらゆる真実を受け入れる用意ができているので、はるか昔から心の中に閉じ込められていた宇宙のパワーに身をゆだねることができるのです。そこに、より幸福な世界が待っています。さあ、共に渡って行きましょう。互いの心を開き、声をひとつにしましょう!』

そして、これが地球の誰もが口にする言葉になりました。私たち地球の人間は、一致団結して愛と信頼のパワーに心を開くのです」 「このような言葉が、やがて時を同じくして地球上の愛に満ちたあらゆる人によって語られるようになり、すべてが変わりました。蝶がさなぎの中で感じた恐れと暗闇を脱ぎ捨てると、地球は天上で輝く真珠のようにきらめきました」

ゆっくりと頷きながら、老人はそこに座っていた。今彼は、あの奇妙な日に森で何が起こったのかを知った。眩いばかりの光のきらめきは、人間の心の内に閉じ込められたパワーが弾け出したものだったのだ。しかし、人間の運命のその瞬間は老人のそばを素通りしていった。彼らが前に進んだとき、老人は恐れのあまり洞窟に駆け戻った。

老人は、もう一度チャンスが与えられるのを心の底から望んだ。老人が座っていたので、ゴッドマザーは立ち上がり彼に向かって歩きはじめた。それで、彼らが自分の元に戻ってきたことが真実であると分かったのだ。老人は立ち上がって彼女を迎えるために前に歩み出し、挨拶しようと手を差し出した。

彼女が両手で老人の手を取って彼の目に微笑みかけたとき、老人は自分も光で満たされ、心は歓喜で溢れているのを感じた。周りから歌や笑い声が聴こえると、彼は口元を震わせながらかすかに微笑んだ。祝宴は始まった。最後のひとりが光の中へ渡ったのだ。終

オースティン・レパス作 翻訳者 saci、チョコごんた、mipo、Tiare、ちび、モルガン。


アメリアという翻訳者ネットワークが主催している、スピリチュアル・エンデバー翻訳プロジェクトサイトから、会員の方が翻訳された心温まるスピリチュアルな短いお話を再掲します。過去にも載せたものですが、読んでいない方も多いと思いますので、再掲です。読んだことのある方も心温まるお話をもう一度味わってみてください。原文はこちらです。

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by 892sun | 2012-02-19 15:09
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この世の仕組み、本当の生き方はもう分かりましたか?地球は次元が変わります。準備は整っていますか?心霊研究家のつぶやきに耳を傾けてください。

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