不眠の聖者を訪ねてspritual short short stores 14自らを高める場は、何の変哲もない日常生活の中にある。時代がめまぐるしく変動する昨今、闇と光は混沌としている。探求者もまたカルマに翻弄され、時として日常の営みを疎かにしてしまう。しかし、その日常生活の中にこそ神の英知と啓示があふれ、私たちが自らの中に神性を見い出してよりよい明日を創ることを促すのだ。 私は7年前、ダライ・ラマが本拠を置くダランサラという地を訪れた。この高原の町はヒマラヤ山脈の中腹、標高約2,000メートルのところにあり、多くの探求者がここを目指してやってくる。電話サービス『トラベラーズ・ホットライン』によると、この地に住む名高い不眠のラマにはぜひ会いに行くべきとのことだった。 数年間も寝ないでいたというこのラマは、「美容によい睡眠」をとる代わりにひたすら瞑想することによって、この驚くべき偉業を成し遂げたのである。その不眠のラマが住むという僻地の僧院へ向けて、5時間に及ぶ徒歩の旅に出るとき私は思った。「そのラマは賢者にちがいない」そして、彼にはあり余る程の時間があるのだから、私の謁見を許可してくれるかもしれないという思惑もあった。 果たして6時間後、私はスパルタンの小部屋へ案内された。そこには、数年間眠らずにいたというラマが座していた。ラマから放たれているらしい仏陀のような静穏なオーラに、私は驚嘆した。そしてこの崇高な存在を目の当たりにし、謙虚な気持ちになった。ラマを捜し出してくれた英語の話せる親切な僧が私にささやいた。「お布施をさし上げてください。お言葉をいただけますよ」しかし私はお言葉ではなく英知を授かろうと、性急に質問をさせてもらうことにした。 通訳の僧は「睡眠薬もシッポを巻いて逃げる」その聖人の耳元に何かささやくと、私に言った。「何をお尋ねになるのですか?」 「精神的に向上するには、どうするのがベストでしょうか」 闇の中から微かに聞こえるエキゾチックな言葉のやりとり。やがて、通訳してくれていた僧が、ついにラマの言葉を告げた。「ラマは言いました。土曜日に出発しないようにと」不眠のラマは私に向かって頷いてみせると、再び静穏なオーラに包まれていった。 冗談じゃない! リュックサックに捧げ物を詰めこんで、5時間かけて来たんだぞ。それなのに、このまま帰れっていうのか? また危険なヒマラヤの山道を5時間歩いて?私は気持ちを静めて考えてみた。たぶん、私は期待しすぎたんだ。いったい、あのラマに何を求めていたのだろう。会えばすぐに悟りが開けるとでも? なんらかの英知を授かったのなら、さぞかし素晴らしかっただろう。だが「土曜日に出発しないように」だって?たぶん、これは、いわゆる禅仏教のパラドックスってやつだ。この平凡な台詞には、偉大なる英知の宝が隠されているんだ。くそっ! ご立派なチベット仏教徒め! 日曜日の朝、この巨大な山の麓まで10時間かかる険しい道を降りるために、私は発着所でバスを待っていた。その時、同伴していた友人が駆けよってきて、狂ったように大声をあげた。「大変だ! 3時間遅れだ! 今、あそこにいる警官と話してきたんだけど、土曜日に出たバスが衝突事故に遭って、14人死んだらしい。道路は救助車でふさがってるって。昨日出発する予定を変更して、大正解だよ!」 私は愕然とした。あのオーラに包まれた聖人の姿がよみがえり、気がつくと私は驚嘆と歓喜で満たされていた。ラマは、私の質問に完璧に答えてくれていたのだ。土曜日に出発していたら、精神的な向上はありえなかったのだから。 我が重大なる問いに対する世俗的な返答は、まさに偉大で、神の英知と啓示にあふれていたのだった。終 アリスト・サラス作 翻訳者 la vie en rose、光 アメリアという翻訳者ネットワークが主催している、スピリチュアル・エンデバー翻訳プロジェクトサイトから、会員の方が翻訳された心温まるスピリチュアルな短いお話を再掲します。過去にも載せたものですが、読んでいない方も多いと思いますので、再掲です。読んだことのある方も心温まるお話をもう一度味わってみてください。原文はこちらです。 ブログ・ランキングに登録しています。お読みになってよかったと思われたら、バナーのクリックをお願い致します。
by 892sun
| 2012-03-16 13:39
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