ひとりごと、ぶつぶつ

遺産相続

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全力投球で毎日書いてきましたが、息抜きも必要だと感じていますので、これからの日曜日はホームページに書いてある創作作品を転載します。お楽しみください。

或る村で名も無い一人の男が死んだ。男には歳の近い3人の息子がいた。死期の近いことを悟った男は、或る日息子たちを枕元に呼んで、死後、遺産のことで争いの生じないように遺言書を読み上げた。

「一つ、長男の一郎には先祖から引き継いだ田地田畑、屋敷など不動産を全て譲る。兄弟で分割してしまっては専業農家として経営が成り立たぬ。長男の義務として、どうか私の跡を立派に引き継いでおくれ。」

「二つ、次郎は勉強が好きで学校の成績も抜群のようだから、学問を修めて世に役立てよ。私の代で稼いだ現金及び流動資産は全て次郎に託す。大学卒業までの学費には不自由しないだろう。」

「三つ、三郎には夢をやろう。私が父からこの家を継いだ時、私は一人子で他にやりたいこともあったが、叶わなかった。父の云い付けに背くことも出来ず、泣く泣くこの土地に埋もれて一生を過ごしたのだ。私が最も憧れた「自由」を三郎にやろう。法律に反するようなことをしなければ、どんな人生を選択しようと、おまえの自由だ、好きに生きよ。」そう言い残して、男は静かに瞼を閉じた。

父親としては、息子たちの性格やら能力を考え、将来を見据えた決断であったが、葬式もすんで一段落したころ、三郎から兄たち向かって不満が述べられた。遺産配分が平等ではないという不満である。確かに物的価値だけから判断すれば不平等であった。父の遺言は絶対であるが、そのことを心苦しく思っていた弟思いの一郎は、三郎の自由と自分の引き継いだ遺産との交換を提案した。三郎がこの家を継ぎ、自分が代わりに家を出るというものである。三郎は喜んで承諾した。

それから幾度も幾度も季節が巡り、今や3人の兄弟たちにも人生のゴールが見え始めていた。

三郎は家長としての立場も引継ぎ、村の役職などにもついて、傍目は立派にやっているように見えたが、地味な百姓仕事は嫌いだったから、家業は妻に任せて政治に関わったり、見当はずれな投資に失敗して、いつしか田畑も少しずつ他人手に渡り、今はほそぼそと出稼ぎ仕事などしながら、生計を立てている。しかし、子宝には恵まれて孫もたくさんできて、それなりに幸せではあった。

次郎はといえば、大学を出て地元の小学校の先生になった。定年は校長として迎えたのだから、たいしたものである。教育は社会建設の根底をなすものである。学問を修めて、世に役立てよ、と言い残した父の教えを忠実に実行した次郎の人生もまた、成功だったのではないか。

家督を捨てて好きに生きる自由を手にした一郎はどうしたのだろうか。一郎自身に人生を振り返って語ってもらうことにしよう。

「家を出ていった時もボストンバッグ一つだけだったし、、こうしてまた、帰ってきたときも昔のように手ぶらで戻ってきた私を世間はどう言うのだろうね。私にとっては世間がどう思おうと関心がないが、静かな村でそんなことが噂にされるのはあなた方には迷惑だろうから、また出かけるが、これまでのことを話しておこう。」

「あれから私は働きながら、全国を回って歩いた。何にでも興味があって、何でも見ておきたかったんだ。そのうち、自分が何がしたいのか分ってきた。親父もそうだったらしいが、私も実は画家になりたかったことを思い出したんだ。それで、レストランで働きながら、美術学校へ通った。それでも納得できなくて、旅費を作ってフランスに渡ったんだ。本場で勉強して認められるのが最高だと思ったんだね。親父の夢を自分が果たしてやるなんて意気込んではいたんだが、さすが本場はレベルが高い。認められるなんて宝くじに当たるより難しいことが分ったよ。名画の模写で餓えを凌ぐような生活を余儀なくされていたんだが、同じような境遇の女性と知り合って結婚した。それで、このままではだめだと二人でアメリカへ行ったんだ。サンフランシスコさ。彼女は菓子作りが得意でね。生活のために手作りのフレンチ・クッキーを売り始めたんだ。これが結構いいビジネスになった。子供も出来てこの頃はとても幸せだったね。でもビジネス上の意見が合わなくなって離婚してしまった。それで私はまた、ボストンバッグ一つを持ってブラジルに渡ったよ。サンパウロの近くに牧場を買ってね。そこで20年ばかり暮らした。ブラジルはいいとこさ、広くておおらかでね。で、そこでも保証した仲間が倒産して牧場は取られてしまった。こここそが終の住みかとおもったけれど、私のような生きかたをする者に終の住みかなんかはなさそうだと気付いてみれば、生まれ育ったこの村が妙に懐かしくなってね。ふらりと帰ってきたと言う訳さ。」

「見渡してみても、私ほどいろいろ経験した人間も少ないだろうね。他人の何倍もの人生を生きてきた気がする。天国と地獄のある遊園地を、ジェットコースターで駆け巡ったような気分さ。人生の目的が体験のためだというのなら、私ほど目的に叶った生きかたをしたものはいないだろうと思うよ。親父の残した遺産を守って、この小さな村で静かに何事も無く一生を終えることもできたのに、三郎のお蔭で本当に素晴らしい人生を送れた。感謝しているよ。じゃあ、またな。」そう言って、一郎はボストンバッグを抱えるとまた出ていってしまった。おわり
 

マイ・スピリチュアル・ワールド、スピリチュアル・ショートショート・ストーリーズ「死んだ男の残したものは」より改題。感想をお聞かせください。


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by 892sun | 2012-07-22 09:51
<< 極楽蜻蛉になりました。 アセンションする人、しない人。 >>



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