ひとりごと、ぶつぶつ

極楽蜻蛉になる方法

いつ頃からかよくは覚えていないのだが、私の夢の中にいつも同じ町が出てくるようになった。夢を見るたびに、その知らない町を彷徨っている。どこにでもあるような田舎町なのだが、やたらに坂道の多い起伏に富んだ狭い通りを、何か探しながら歩く。疲れると町の駅から汽車に乗る。駅には名前がなかった。何線なのかも分からない。どこへ行くのかも分からないのだが汽車に乗れば、何時の間にか目が覚める。

その町にはたくさんの家もあったし、商店もあった。公民館のような建物もあったし、学校もあったように思う。けれど誰もいなかった。なぜか人っ子一人として見かけたことがない。ある夜の夢の中で、私は町の外に出てみようと思った。私は急な坂道を一生懸命登っていったように思う。道はだんだん細く獣道のようになって諦めかけたとき、遠くに山門のようなものがあるのが見えた。

山門に近ずくと中で小僧さんが手招きをしている。そこからは長い石段が上のほうまでずっと続いている。小僧さんはぴょんぴょん登っていくが、私は這うようにして登った。何百段にも思えた階段を登りきったとき、そこにはとても古びた荘厳な寺があり、掃き清められた境内で大勢の人たちが僧の話に聞き入っていた。

私はその場にへたへたと倒れこむようにして座り、みんなと同じようにして法話に耳を傾けた。何が話されたのか、何を聞いたのか覚えていない。その日目覚めたとき、枕が濡れていた。泣いていたらしい。なぜ泣いたりしたのだろうか。その日から私はあの町へは行っていない。確かなことはそれから自分が変わり始めたことを自覚したことだ。心だけではなく、体もあんなに病弱だったのに、今では活力が満ちているのを感じる。何かが完全に変わってしまったようだ。何が変わったのだろう。

朝、目覚めただけで嬉しくてしょうがない。今日一日何が起きるか楽しみだ。何があっても平気。あれこれ欲しいものがなくなってしまった。食べられて寝るところさえあれば、後はなんとかなるだろう。今までなんであんなに悩んでいたのか不思議に思えてくる。死ぬことさえ怖くなくなった。

このあいだのことだった。近くの公園を足取りも軽くスキップして歩いていた。すると一人の男が足早に近ずいてきて呼び止めた。
「ああ、もし、すみません。突然呼びとめて。時々お見かけするのですが、いつも楽しそうにしていらっしゃる。何がそんなに楽しいんですか?」
見るからに貧相な男は不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「世の中不景気だし、新聞読んでも腹の立つことばかりじゃありませんか。それなのに、あなたはいつも楽しそうだ。」
「私がそんなに楽しそうに見えますか。それは有り難い。私は楽しくしたいと思って楽しそうにしているんです。」
「それはどういうことで?」
「楽しくしていれば楽しいことが起こるし、悲しそうにしていれば悲しみがやってくる。」
「そりゃ私だって、辛いことより楽しいほうがいいに決まってますよ。だけど現実は目が覚めて寝るまでは心配事やら悩みでいっぱいです。どうしたら、あなたのようになれるのか、ぜひご教授願いたいもんです。」
「実に簡単なことですよ。ぜひ今日からでも始めてみてください。いいですか、あなたの願いを紙に書いて、夜寝る前に十回唱えてください。そうして、もうそうなったと思い込んで寝るようにしてください。願いは必ず叶います。成功をお祈りします。」

今朝のことだった。あの男が私を見つけ、明らかに不快な表情を見せながら、
「このあいだのアレなんですか。私が真面目に聞いたのに。あなたの言う通りにしたらこのザマだ。まったく不愉快だ。」
急に食ってかかられて閉口したが、わけを聞いてみた。
「しかし、おかしいなあ。どんな願い事をされたんですか?」
「これですよ、これ。」
いまいましそうに言って、男は内ポケットから折たたんだ紙を取り出すと広げて見せた。その紙にはこう書かれていた。

    [商売をもっと繁盛させて欲しい、もっとお金が欲しい]

「なるほど」と、私は言った。
「願いは叶ったじゃありませんか。商売を繁盛させて欲しい、すなわち繁盛していない状態であり、お金が欲しいということはお金が必要な状態です。欲はかくほど悩みは増えるというのが道理です。」そして私はポケットから一枚の紙きれを出して男に渡した。その紙にはこう書いておいた。

    [私は幸せ者です。世界中の皆さん有難うございます。皆さんに愛を。]

唖然としているその男に背を向けると、私はいつものように楽しくてたまらなくなり、めっきり春めいた公園の散歩道を鼻歌を歌いながらスキップしたのだった。川の向こう岸の梅の木で鶯が一声高く鳴いた。おしまい    癒しのための短いお話たちより


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by 892sun | 2012-09-09 09:09
<< アセンションなんてないという説 就職難に苦しむ若者たちへ >>



この世の仕組み、本当の生き方はもう分かりましたか?地球は次元が変わります。準備は整っていますか?心霊研究家のつぶやきに耳を傾けてください。
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