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ひとりごと、ぶつぶつ

閻魔大王

ある夜のこと、マンションの一室で、身元のよく分からない中年女性の死体を管理人が見つけました。警察が調べたところ、全身を鋭利な刃物でめった刺しにされ、それはそれは無残な殺されかたでした。このことは新聞にも出ましたが誰一人気にも留めることはありませんでした。

生前、彼女は、自分のような者が死んだら、きっと閻魔様に舌を抜かれ永遠の業火にあぶられて苦しむ地獄に落ちるだろうと信じていましたので、その夜、さっそく閻魔大王の前に引きずりだされました。

暗闇にたいまつがたかれ、赤鬼、青鬼などの地獄への使者が大勢でてぐすねを引いて待ち構えています。女の前に、真っ赤な顔をした髭面の大男が、右手にペンチ、左手には長い鉄棒を持って立ちはだかっています。女は恐ろしさにうち震え、おしっこを漏らすほどです。すっかり観念して閻魔大王のお裁きの言葉を待ちます。

しかし意外にも閻魔大王は見かけよりずっと優しい声でこう言ったのです。
「女よ、どんな幻を見たというのだね。目を閉じて最初からみんな思い出してごらん。私も一緒に見てあげよう。」
女は目を閉じて、ずっと昔からのことを思い出そうとしました。すると瞼の裏に大きなスクリーンが現れて、赤ちゃんだった時からの様子が写し出されてきたのです。

彼女が生まれたのは、貧しいけれど愛に満ちた若い夫婦のところでした。お父さんは、酒も煙草もやらない真面目なサラリーマンでした。お母さんも彼女を育てながらパートに出て働いていました。彼女は陽気で活発で、少しばかりやんちゃなお転婆さんでした。この時代が彼女の人生において一番幸せなときでした。

お父さんは一生懸命働きましたので、会社でも偉くなっていきました。その頃から、お家に帰るのが遅くなり、お酒を飲むようになったり、お母さんと喧嘩をするようになりました。お家も狭いアパートからきれいなマンションに移り、生活はずっと楽になりましたが、両親の仲はますます悪くなり、彼女が中学生になった頃、離婚しました。

お父さんに別の好きな人が出来たのよと言って、お母さんは泣いていました。お母さん思いだった彼女は、お母さんを裏切ったお父さんを許せませんでした。いつか復讐してやりたいとさえ思いました。

お母さんはまた働きに出るようになり、彼女も勉強のかたわら、よくお手伝いをしました。成績も良かったので大学に進むつもりで準備をしているとき、お母さんが倒れました。進学どころではありません。生活のためアルバイトを始めましたが、入院費、手術代など考えると、夜の世界で働くしか道はありませんでした。

そこで彼女が見たものは、自分たちを裏切った父親と同じ姿の男たちでした。今は美しく成長した彼女に男たちは群がってきました。男たちへの復讐心が蘇り、だましたり、相手の家庭を壊すことが生きがいのようになっていきました。そんなことにすっかり夢中になっている間に、お母さんは亡くなりました。心にぽっかりと穴があいてしまったようになりました。

何ヶ月かたって、気を取り直しか彼女は宝石デザインの勉強を始めました。しばらくして、そこで知り合った男性と結婚し、二人で小さなオリジナル・アクセサリーのお店を開きました。可愛い坊やにも恵まれました。二人で作ったアクセサリーはとても評判が良かった。高価な宝石類も、飽きたら買った値段で引き取るというアイデアが好評で、売上もどんどん伸びて、あちこちに支店を出せるようにまでなったのです。

彼女は有頂天になっていました。自分にはお金の神様が付いていると、本気で信じていました。お金があって美しいのですから、廻りがほうっておくはずがありません。まるで女王様にでもなったように振舞っていたとき、夫と子供はひっそりと家を出てゆきました。でもそのときは、そんなことはどうでもよくなっていました。

お金さえあれば何でも出来る。不動産や株、美術品、なんでも買いあさりました。お金が足りなければ銀行員が運んできてくれました。買ってもっているだけで価値が上がるのですからたまりません。

世界は自分のためにあると思っていた在る日、現実だとばかり思っていた風船が膨らみすぎて破裂したのです。あわてて持っているものを売って清算しようとしたのですが、買い手がつかず、借りたお金の請求書ばかりが舞い込むこととなりました。破産でした。

瞼の裏のスクリーンにはまだ次々と今までのことが写しだされてきます。名前も変えて日本中さまようように旅をし、ある地方都市に落ちついてスナックバーを経営しながら、こ金貸しを始めたのは、ついこの間のような気がしています。女王様みたいな夢のような生活が忘れられず、回りのオトコたちに小遣いを与えたり、お金を貸し付けて高い利息を取ったりしていました。

時は流れ、若さと美しさの代わりに執着心が顔に出ているのを厚化粧で隠していました。あの事件は、それまで面倒をみてきた若者に恋人が出来ての別れ話からです。彼女は嫉妬に狂い、今まで貢いだお金の清算やら、過去をみんな恋人にバラすと脅かしたのです。あの夜、若者はマンションに忍びこみ憎しみを込めて彼女の体に何度もナイフを突き立てたのでした。

静かに読経の声が聞こえます。ひっそりと葬儀が行われています。二人の男性が頭をたれ両手を合わせています。夫と息子でした。生まれてから殺されるまでの人生を気丈にもじっと見ていた彼女でしたが、この光景を見せられて初めて嗚咽し泣きくずれました。

泣き伏せていた体を戻そうとしたとき、傍らで同じように泣いている女性の気配を感じました。そっと目を開けるてみると、もうそこには閻魔様も赤鬼青鬼の姿も消えていました。
「あなたはどなたですか」と尋ねかけて彼女はとても驚きました。それは自分とそっくりの人だったからです。
「わたしはわたしです。」と傍らの人は答えました。
「わたしはわたしの良心、本当のわたし自身なのです」
「ではわたしは誰なのかしら?本当のわたしさん、教えて頂戴。閻魔様はどこへ行ったの?わたしの裁きはどうなったのかしら。」
「こちらでは思ったことが形になって現れます。裁くのは自分自身であり、わたしの痛みがわたしに痛みとして感じられる、それだけのことなのです。この人生でのわたしの思い、言葉、行動の一つ一つ、自由意思と良心のはざまで揺れていましたね。その都度、わたしは痛み、苦しみを味わいました。」

声はいつのまにか彼女自身の内部から響くように聞こえ、傍らの人影も消えていきました。代わりに、すでに亡くなっていた祖母や母、彼女の人生を見守ってきた守護天使たちが現れ、付き添うようにして彼女をかなたに見える光に向かって連れていきました。 おわり
癒しのための短いお話たちより

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by 892sun | 2013-02-24 09:45
<< 真面目にセックスについて語る 暴かれる真実・もう私たちを騙せない >>



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