蝶に成り損なった青虫
或る日、ある時、一人の男の魂が肉体を離れた。人が死ぬとまず行くのは中有界といわれるところである。ここはこの世での疲れを癒すリハビリテーション・センターで、男も暫らくここで寛いだ生活に浸っていたが、それぞれが先に進むために過去のアカシック・レコードの分析が行われて、二つの道に振り分けられることになるのである。幽界に進む者と霊界に進む者とである。
霊界に進む者とは、何度かの再生を繰り返してこの世での学びを全て終えた者であり、再びこの世に生まれることはない。霊界入りして、さらに上位の学びへとステップアップすることになるが、幽界に進むことになった者は、次に生まれていく環境などを選択し、自分の進化成長に最もふさわしい状態になることを待つことになる。 霊界に入る者たちのリストが発表されるというので、男は期待して発表を待った。生前、男は精神世界に興味を持っていたので、多くの書物を読み漁り、霊的真理についても理解しているつもりであった。俗世間には関心がなかったので、荒行などにも参加して心身を浄化してきてもいた。だから当然、自分は次は霊界に進むだろうと思っていたのである。 しかし、残念ながら霊界入りリストの中に自分の名前は書かれていなかった。「何故だ」男は不満と怒りで全身が震えるのを抑えきれずにいた。その時、彼の肩を叩く者がいたので、振り返ると、そこには自分の守護霊が立っていた。そして無言のまま傍らの部屋に入るように指示されたので、その部屋に入ると、そこには大きなスクリーンが用意されていて、何か映像が映し出されている。 広い美しい草原だった。目を凝らすとその一画には夥しい青虫が発生して、草を美味しそうに食べている。数源の全ての草花を食べてしまいそうな勢いだった。それを目ざとく見つけた小鳥たちが急降下してきては、虫たちを食べる。ごく自然な営みに見えたが、男はその中の一匹の青虫が自分であることに気がついた。 その青虫は他の青虫が一生懸命草を食べることに夢中になっている姿を冷ややかに見ていた。「馬鹿だなあ、あんなことをしていたら、すぐに鳥たちに食べられてしまう。ここはじっと我慢していたほうが利口というものだ」そう思って、鳥たちに見つからないように草の葉の裏でじっと身を潜めていた。 時がきて、青虫たちの羽化が始まった。多くの青虫たちがいっせいに蝶に変身し、大空に飛び立つ姿は実に見事で美しいものであった。草陰に身を隠していた青虫も、羽化をし始めたが、うまく羽根が広がらない。栄養不足で蝶になるには身体が未完全だったのである。必死でもがいてる傍らに、上から一筋の蜘蛛の糸が降りてきて、身体全体を覆ってしまった。そしてあっという間に蜘蛛の巣まで運ばれていったのであった。男はやっと自分に何が足りなかったのか理解した。終わり 癒しのための短いお話たちより 「ひとりごと ぶつぶつ」 矢国タテル著、明窓出版、¥1300+税、このブログの過去ログが本になりました。購入を希望される方は最寄の書店に注文されるか、こちらからご注文ください。アマゾンからも注文できます。 哲学・思想及びスピリチュアルのジャンルでブログ・ランキングに登録しています。お読みになってよかったと思われたら、バナーのクリックをお願い致します。 個別のコメントにはしっかり対応できていませんが、コメントのやりとりを希望される方はミクシーからアクセスしてください。「やくに」で検索すれば見つかると思います。ご相談のある方はホームページ「マイ・スピリチュアル・ワールド」からお入りください。よろしくお願いします。
by 892sun
| 2013-07-14 10:39
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