ひとりごと、ぶつぶつ

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第19話 ミューズの子

ペテロのお父さんはいつも陽気で、大きなよく通る声で歌を唄うのが好きだった。市場で果物を売るときも、まるでオペラ歌手みたいに節をつけた声で客を呼んでは皆を笑わせていた。ペテロはそんなお父さんが大好きだった。

ペテロが6歳になった時、戦争が始まった。国を守らなければと言って、お父さんや男たちは皆出かけていった。ペテロはお母さんと妹と、お母さんの生まれた村に避難した。

お母さんんの遠い親戚に頼んで借りた納屋がペテロたち家族の住まいになった。藁を積んだだけのベッドだった。お母さんもペテロも農家の手伝いをして食べ物を分けてもらった。

お父さんのいない家庭ほど惨めなものはない。お母さんが時折見せる悲しそうな顔を見るたび、ペテロはお父さんから覚えた歌を大声で唄った。そして、この家族は僕が必ず守ってみせると心に誓うのだった。

そんなペテロに一つだけ楽しみが生まれた。村の教会の聖歌隊のメンバーになれたことだった。お父さんの血筋を受け継いでペテロも歌がうまかった。賛美歌を唄っているときだけが安らぎのときだった。

一年、二年と時は過ぎてゆくのに、お父さんは帰ってこなかった。村に悪い噂が流れてきていた。敵の軍勢がどんどん押し寄せてきているというのだった。噂は本当だった。逃げ惑う人々がこの村を通り過ぎて行く。この村の人たちも逃げ出して行った。

ペテロたちは逃げなかった。お父さんはもう帰ってこないと思ったからだった。ペテロの家族は心を決めて僅かに残った人々と教会に向かった。最後の祈りを捧げるために。

牧師のオルガンの演奏と美しい賛美歌が流れていた。小さなステンドグラスの窓に戦火が稲妻のように照り返していた。やがてそれは歌声をかき消し教会も炎の中に崩れ落ちていった。


ペテロは気が付くとお父さんの腕にしっかりと抱かれて美しい湖のほとりにいた。妹も母さんも一緒だった。周りの草原には見たこともない色鮮やかな草花が咲き乱れ、虹色のオーロラが舞う空を小鳥たちの群れが踊る。そこには餓えも寒さも恐怖もなかった。他にも再会の喜びを分かち合っている家族があちこちにいる。ペテロは夢を見ているのだと思った。
「お父さん、やっと会えたね。僕、嬉しいよ。でもこれは夢なんでしょう。」
「ペテロ、大きくなったな。父さんも嬉しいよ。これは夢じゃないだ。これからはずっと一緒だよ。」
「ああ、なんてここは暖かくて平和なんだろう。それに較べて今まではなんて惨めだったんだ。人々はすぐに争うし戦は果てしなく続く。いつになったら、ここと同じように平和で穏やかな生活が出来るんですか?」
「人々の心の中が暖かく穏やかになれば争うこともなくなるだろう。心に愛を、唇には歌さ。」

誰が唄いだしたのか、神への感謝が賛美歌となって口をついて流れ始め、まわりの全ての者たちが合唱していた。祈りは青く透明な大気の中をどこまでもどこまでも響き渡っていった。オーロラの光も旋律に合わせるように形を変化させた。その時、天空の一角からキラキラ光るものがペテロたちの方へ降りてきた。それは次第に大きくなって形がはっきり見えた。すべてがクリスタルのように透き通った六頭立ての馬車だった。

馬車から降り立ったのは眩いばかりに光輝く女神だった。
「私はミューズです。あなた方にはご苦労だけれど、まだしていただくことが残っています。人々の魂は乾いているのです。だから諍いが絶えません。世界中にもっともっと潤いのある音楽を行き渡らせなければなりません。私の手伝いをして下さる方はいませんか?」
「僕が行きます。」と、ペテロは迷わず手を挙げた。
「あんな惨めな生活をする人びとを一人でも減らせるのなら、僕は何でもします。」
「ありがとう、ペテロ。あなたにはいつでも必要な時、必要なだけ、私の力が使えるようにしてあげましょう。」


1756年1月27日、ドイツのザルツブルグの司教お抱えの音楽家の家に一人の男の子が産まれました。幼名ヨハンネス・クリュソストムス・ウォルフガング・ティフィルス。誰に教わることなく4歳にして音符を読むことが出来ただけでなくメニュエットを作曲したり、クラビーヤやバイオリンを演奏することが出来ました。1791年、35歳の若さで使命を終えて、この世を去るまで残した業績は驚異的というほかありません。フィガロの結婚、ドン・ジョバンニ、魔笛など歌劇20数曲、交響曲約40、ピアノ協奏曲30、バイオリン協奏曲10、その他の楽器の協奏曲10、バイオリンソナタ20数曲、オルガンとオーケストラのために10、ピアノ三重奏曲8、弦楽四重奏曲20、弦楽五重奏曲7、ピアノソナタ18、他にも独奏曲、レクイエム、ミサ曲などなど。ミューズの子の名に相応しい人生でした。     おしまい
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by 892sun | 2007-11-10 11:46

第18話 居眠り棋士

安田弘二、32歳。通称安っさん。腕の立つ大工である。念願のマイホームも建て、嫁さんももらってコンビニの弁当から解放され愛妻弁当に舌ずつみをうつ毎日である。今日も今日とて絶好調の筈だったが浮かれすぎたか足場を踏みはずして転落し、したたかに腰と頭を打って意識不明となり病院に担ぎこまれた。

幸いたいしたことはなく、病院には一晩いただけですぐに退院し、その三日後には頭に包帯をぐるぐる巻いて工務店の事務所に顔を出した。
「おや、安っさんじゃないか。おいおい、もう出てきていいのかい。仕事のほうなら心配ないから、もう暫くは養生してたほうがいいんじゃないのかい。」
工務店の社長は、驚いたように、親しくしている客相手に指していた将棋の手を止めていたわるように言った。
安っさんは、普段から腰の低い男だが、今度のことを自分一人の責任と感じているらしく、益々低姿勢になって何度も頭を下げて、
「親父さん、どうもご心配かけちまって。みんなオイラの不注意からです。本当にすみませんでした。もうそんなに痛みませんから、明日からでも現場に戻しちゃあもらえませんか?ええ、もう全然大丈夫なんですから。」
ぺこぺこと何度も頭を下げながら、上目遣いに社長が客と将棋を指しているのを見て、なぜか安っさんの目がキラリと光った。


突然のことだった。安っさんは何を思ったのか、つかつかと社長の背後にまわると肩越しに将棋の盤面を見渡し何事か小声で社長の耳元に囁いた。その行動に驚いたのは社長だった。縁台将棋ではない。少なくとも仕事上の客相手のいわば接待将棋である。それに、彼はいつも礼儀正しく、こんなに失礼な態度を取ったことなど一度もないし、第一彼が将棋を指していたことなど見たことがない。

社長はアマチュアの2段か3段の実力はあると思っている。それが素人に手を指図されて面白いわけがない。内心は腹を立てていた。が、そこは小さいとはいえ1国1城の主である。客の手前おくびにも出さず
「おや、安さんが将棋を指すとは知らなんだ。3九飛車か。なかなか良い手じゃないか。岡目八目とは良く言ったもんだ。」とその場を繕う。安っさんは、そう言われて気付いたのか、ハッと我に返ったように
「あっ、すみません。余計なことをして、すみません。すみません。」とあたふた事務所から出ていった。安っさんの様子は多少変だったが、静かになって元の盤面を見てみると、やはり3九飛車は攻防に効く実にいい手だった。実はその時社長は次の手に窮していたのだった。その日は社長の快勝だった。付き合い将棋とは言え勝てば気分がいい。

安さん自身も自分の中で何か変だとは感じていた。あれ以来ムショウに将棋が指したくてたまらない。将棋なんて小学生の頃、近所の友達と遊びで指しただけだ。ルールは覚えてはいたが大人になって指したことはない。全く今まで興味も湧かなかった。これまでの趣味といえば釣りだった。休みといえば自慢の4駆で渓流釣りに通ったものだ。それがどうしたんだろう。夢の中にまで駒が舞う。

安さんは衝動を押さえることが出来ず、暇さえあれば町の道場やリクリエーションセンターへ出かけて将棋を指すようになった。誰彼かまわずのろけていた愛妻はほったらかし、4駆はバッテリーが上がってしまっていた。しかし安っさんはどこでも嫌われていた。めちゃくちゃ強いのである。勝負事というものは勝ったり負けたりするから次もということになる。それが負けないとなれば誰も相手をしてくれない。噂を聞いた工務店の社長が相手をしてくれたのも一回きりだった。相手を増やそうと手加減しようにも、安っさんの頭の中には最善手しか浮かんでこない。安っさんの意思とは関係なく手が勝手に動いてしまう。

「最近の安っさん変ですよ。時々ボーとして話しかけても上の空で仕事にも身が入らねえようだし、まったくどうしちまったってんですかねえ、頭の打ちどこが悪かったんじゃねえんですか。」
同僚たちがそんな噂話をしているのを耳にして、社長もほうっておくわけにもいかなかった。安っさんを社長室に呼んだ。
「自分でも訳が分からねえんですが、まるで将棋中毒です。それなのに相手をしてくれる人がいなくって、心がモヤモヤしてて晴れねえんです。」
「そんなところだろうと思ってな。今度の将棋大会に君をエントリーしておいたよ。最初は区の大会だが、勝進めば全国大会だ。趣味と仕事は両立せねば意味がない。社をあげて応援するから頑張ってくれ。安っさんならアマチュア名人も夢じゃない。」
社長にからかい半分でそう言われて、安っさんの顔つきが変わった。

春から始まる区の大会は届けを出せば誰でも出られる。総勢200人ほどの将棋好きが勝ち抜き戦を行う。ベスト8まで残ると次の週に準々決勝、準決勝、決勝戦で都の大会へ出場する選手が決まる。安っさんの強さは、ほぼ把握していたはずの社長だったが、予測は見事にはずれ、あっさり決勝進出したのである。選手付き添いということで社長も決勝の観戦をすることができた。そしてますます驚いた。安っさんは早指しである。ほとんど考えているようには見えない。ほとんど持ち時間を消費しない。いつ考えているのだろうか。相手が考えている間に考えているのだろうか。否、彼はその時は目を閉じて眠っているように見えるのだ。息遣いさえ鼾のように聞こえる。相手の指した駒音に目を覚まし盤面をのぞき込み、すぐに指す。そして眠る。この繰り返しなのだ。

結局、安っさんはあっさりと勝ってしまい、1ヶ月後に行われた都大会でも優勝してしまった。喜んだのは社長だった。会社の玄関に垂れ幕をかけて、安っさんの付き添いを嬉々として始めた。安っさんは堅苦しそうだったが、断るわけにはいかない。秋の全国大会でも安っさんは名だたる強豪をなぎ倒して勝ち進み、最後は前年度の名人さえ将棋を始めて一年足らずの男の行く手を阻むことは出来なかった。ついに安っさんはその年のアマチュア名人の地位を獲得したのである。そしてこのこと自体夢のようなことなのに、もっと凄い御褒美が待っていた。今をときめく羽田王将との対局である。

歳の瀬も押し詰まった12月20日、安っさんと社長は指定された一流料亭にて羽田王将との一戦に臨むことになった。安っさんは社長に誂えてもらった羽織袴に身を正し、歩く姿もコチコチである。ところが、この男、将棋盤の前に座ると人が変わる。羽田王将に1歩も引かず渡り合っている。例によって早指しである。あまりの早さに王将もしばし苦笑いだ。調子が狂ったのかなめたのか王将苦戦。安っさんの攻めも鋭い。しかし、さすがプロ棋士の頂点に立つ羽田王将、140手を越す大激戦の末、安っさんの王様を捕まえてしまった。逃げ場がない。負けである。ところが安っさん、いつまでたっても顔を真っ赤にしてうーんうーんと唸るばかりで負けましたと言わない。安っさんは負け方を知らなかったのである。そばにいた社長が安っさんの頭を無理に押し下げ、世紀の一戦の幕は閉じた。

将棋が終わってしまえば、ただの気弱な大工にすぎない。何を聞かれても下を向いて、はい、はい、としか答えられない。皆が王将を囲んで楽しそうに将棋談義に花を咲かせているのに、安っさんは一人ボーとして窓の外を見ていた。良く手入れされた庭は昨夜の雪でほんのり薄化粧して、真っ赤な寒椿が美しい。安っさんは火照った顔を冷やそうと新品の雪駄をつっかけて庭に1歩踏み出したとたん、足を雪に滑らせてひっくり返った。そして頭をいやというほど庭石にぶつけたのである。

安っさんにとって多難な一年は終わった。愛妻弁当を開いてうまそうに食べながら、安っさんはこう言う。
「算盤やる人で暗算のうまい人は頭の中の算盤使うっていうでしょ。オイラの場合は頭を打った拍子に将棋盤が入ってきただけなんです。そうしたらもうやたら将棋が指したくなって、指せば次の手が見えてくる。だけどまた勝手に出ていきました。もう指したいとか思いません。これでいいんです。家内も喜んでくれてますし。」
どうやらがっかりしているのは社長だけのようである。    居眠り棋士 終
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by 892sun | 2007-11-09 14:49

第17話 「人間万事塞翁が馬」より

私は、天気の良い日は近くの河原で出勤前に1時間ほど釣り糸をたれるのを日課にしている。魚を釣るのが目的ではないからビクの中に獲物を入れたことはない。ただ無心に竿先のウキを見つめているだけで気持ちが研ぎ澄まされ、一日のエネルギーが湧いてくるような気がするのだ。

その日もいつも通り指定席に陣取り、静かにウキに精神を集中していた。すると、どこから現れたのか乞食のような身なりをした男が二人、私の後ろで食べ物を広げ酒盛りを始めた。近頃は不況のせいか、あのようなホームレスが増えた。人生の落伍者だ。私のようにきちんとした人生設計をしておればあのようなことにはならぬのに、愚かな者たちだ。せっかくの精神集中が妨げられ迷惑極まりないが、あのような者たちと関わりあうのもごめんだと、私は無視を決め込んで気持ちをウキに向けようとした。

しかし、可笑しなもので、そうすればするほど彼らの会話が鮮明に聞こえてくる。

「昔、儂のうちに栗毛のそりゃあ立派な馬が迷い込んできてな。」

「へぇー、そりゃ良うござんした。」

「良くもない。倅がさっそく乗り回したのだが落馬してな、足の骨を折ってしもうた。」

「へぇー、そりゃお気の毒なこって」

「そうでもなかったのじゃ。そのせいで倅には赤紙は来ず、兵隊に取られずにすんだのじゃ。」

「へぇー、そりゃ良うござんした。」

「良くもない。足が悪うては野良にも出られず、嫁の来手もない。」

「へぇー、そりゃお気の毒なこって。」

「そうでもない。力仕事は諦めて絵を描くようになってな。その絵がなかなかの評判を得て高く売れるようになったのじゃ。」

「へぇー、そりゃ良うござんした。」

「良くもない。小銭があると分かったら金の亡者が寄ってくる。貸してやったり、保証人まで引き受けてやったのじゃが、皆んな逃げてしもうてな。田地田畑みんな取られてしもうた。」

「へぇー、そりゃお気の毒なこって。」

「そうでもない。あればあったで悩みの種になる。何もなければ悩みもない。執着するから悩みが生まれるのじゃな。その日、その時に与えられたものを感謝し、楽しんで生きておれば必要なものはみんな手に入るのじゃ。必要以上に欲をかくからいかんのじゃ。金に追われ、仕事に追われ、時間に追われる人生に空しさを感じて、やっと一息つく頃には人生の終着駅じゃ。そんな愚か者がなんと多いことよのう。」

私はなぜか自分のことを言われているような気がして、慌てて後ろを振り返った。確かに今までそこに座って話していたはずのホームレスたちの姿はなく、その場所には、ススキの穂だけが秋の風にゆれて波打っているのだった。   おしまい。
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by 892sun | 2007-11-08 15:55

第16話 マザーテレサからの手紙

いつもの日の朝、いつもと同じように、お父さんとお母さんが病室を訪ねると、もう加奈子ちゃんはベッドに上半身を起こして待ちきれなかったようすで話しかけてきました。
「パパ、ママ、ねえ聞いて。昨日の夜、マザー・テレサのおばあちゃんが私のお見舞いに来てくれたのよ。」
と、それまでとはうって変わったような元気な声で言ったのです。いくぶん頬も紅をさしたように赤みが増していました。

加奈子ちゃんは生まれつき心臓に欠陥があって、誰かの心臓をもらって移植するしか治る見込みがない病気でした。それでも赤ちゃんのときは元気だったのですが、小学校に上がるころになると何をするにも、すぐ息切れして貧血を起こししょっちゅう倒れました。検査してみると心臓に欠陥があることが分かったのです。それからは適合する心臓を持った人からの移植に望みをつないでいましたが、条件を満たすような人は見つからず、今まで手術出来ませんでした。

加奈子ちゃんは本がとても好きでした。そのなかでも、誰が何時持ってきてくれたのか、マザー・テレサのことを書いた本がとても気に入っていて、自分も病気が治って大きくなったらインドへ行ってマザー・テレサのお手伝いをしたいというのが夢だったのです。そのことをいつもお母さんに楽しそうに話すものですから、突然、加奈子ちゃんが、マザー・テレサが会いにきてくれたなんて言われて、驚いてしまいました。悲しむといけないからと内緒にしておいたけど、マザー・テレサはもうお亡くなりになってしまわれたのよ。加奈子はきっと熱でも出して夢を見たのに違いないわ。それにしても、この子は夢と現実の区別もつかないほど悪いのかしら、と心配しながらも
「そうなの、それは良かったわね。それで、マザー・テレサさまはなんとおっしゃったの?」と聞いてみるのでした。

「お父さん、お母さん、私のために今まで本当に苦労かけたり、心配させてごめんなさい。私のことはもう心配いらないって、おばあちゃん言ってたわ。だから、これからは自分たちのことについて考えるようにって。希望を持って生きるようにって。おばあちゃんからの伝言よ。私の望みは叶うって。私もおばあちゃんのようになれるんですって。私とても嬉しかった。それから、おばあちゃんはこうも言ったわ、私のように寝ていても、私よりももっと辛い思いをしている世界中の子供たちのために祈ることで、マザー・テレサのお手伝いをしてることになるんですって。」

加奈子ちゃんはそれからの数日間、小康を得たように穏やかで静かな日々を過ごしました。両手を胸の前で合わせて、ずっと祈っているようでした。そしてそのまま天使のような微笑を浮かべたまま静かに息を引き取りました。

次の日のことです。悲しみにくれる加奈子ちゃんの家の郵便受けに、切手のない宛先も書かれていない虹色の封書が入っていました。開けてみると、同じような虹色の便箋に次のようなメッセージが英語で書かれていました。

 親愛なる加奈子の父母へ    
 加奈子の切なる願いを聞き入れて、あなた方に私からのメッセージを贈ります。
 愛の絆は死といえども切れることはありません。
 加奈子は今、私と共に生きています。どうかいつまでも悲しまないように。
 新しい生活を希望を持って始めなさい。
 加奈子はいつでもあなた方を見守っています。
 あなた方に神のご加護がありますように。
                          マザー・テレサ

                                            終
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by 892sun | 2007-11-07 11:09

第15話 さよならフーちゃん

あれほどにぎやかだった夏のざわめきが消えて、すっかり静かになった秋の海辺に立って、僕は遠くへ目をやり沖合いの白い波を見つめていた。満足感と寂しさが入り混じった複雑な思いで、この夏のささやかな思い出に浸っていた。

あれは夏休みも近い蒸し暑い日のことだった。一時間目の授業に遅刻した僕は、そのまま学校とは反対の海沿いの道を通って、この町でやっている水族館へ行った。なんとなく乗れない気分の日はいつもそうしていた。

受け付けのおばさんとは顔なじみで、軽く会釈すると「あーあ、今日もサボリなの。真面目に勉強しないと後で後悔するわよ。」と聞き飽きたせりふ。呆れた様に言いながらも、いつも通り裏口から中に入れてくれた。ウィークディの午前中の水族館は閑散としていて客なんていない。僕はウォークマンで音楽を聴きながら見慣れた水槽の前を歩いた。小型の魚の水槽が並んだ通路が終わると、大型の魚が回遊出来る大きな水槽。奥には海辺の小動物の生態が見られる浅い水辺と砂浜。そこを抜けるとイルカの水槽があって、簡単なショーをなどやることになっている。その脇の階段を少し登ると外へ出られる。そこにはかなり大きな自然風な作りのプールがあってシャチが何頭かいる。サイドにプールを見下ろすように客席が設けられていて客がいればショーをやる。

僕はいつも通りコースに沿ってシャチのいるプールの客席の一番隅に腰を下ろすと、意味不明の後ろめたさのようなものを感じながら、それでもボーとしたまま音楽を聴いていた。しばらくして耳に雑音のようなものが入り出したのでチューニングダイヤルを動かした時だった。頭が壊れそうなキーンとした耳鳴りがして僕はイヤホーンコードを慌てて引っ張るようにしてはずした。耳鳴りはそれで治まったが、その後、頭の中で声のようなものが聞えてきた。

「お兄さん、聞える?僕だよ。イルカのフーだよ。聞える?さっき、前を通っていったよね。知ってるでしょ?お兄さん、助けて。僕をここから出して。お兄さん、僕は海に帰りたいんだよ。聞えてる?お兄さんだけが頼りなんだ。狭くて、もう気が狂いそうなんだ。早く助けて、お願いだよ、お兄さん。」こりゃ、何だ?これが、テレパシーってやつか?なんてことだ。イルカのフーちゃんが僕に話しかけてきた。

僕は慌てて立ち上がると、階段を駆け下りてフーちゃんの水槽の前に行った。フーちゃんは僕が分かってくれたと思ったらしく、嬉しそうにぐるぐる上下に回転した。分かったけどさ、フーちゃん、僕になにが出来るのだろう?僕は一応、頷くようにして頭を前にこくんと振った。なんとかしなくちゃ、という思いが強かった。その足でそのまま事務所に行って夏休みのアルバイトに雇ってくれないか頼んでみた。館長はまだ出勤していなかったが、世話係りのおじさんがいて、「いいともさ、捜そうと思っとったとこだで。」と引き受けてくれた。

僕は夏休みを待って水族館で働き始めた。フーとのコミュニケーションは僕が心に思えばどうやら通じるらしかった。考えて水槽の前にいくと、フーは嬉しそうにぐるぐる回転する。もう声は聞えなかった。一応計画は考えた。でもこれじゃあなあ、運を天に任せるというか、でも、高校生の僕に出来るのはこれしかなかった。

時はじりじりと過ぎていった。「おいおい、大丈夫かなあ、もう夏休みが終わっちゃう。」でも、やっとその時がやってきた。天気予報が台風の接近を伝えていた。しかし、僕の計画によれば、その時が、大潮で、満潮の時刻と重ならないとダメなのだった。たしかに明日は大潮だ。もう神様に祈るしかない。「フーちゃん、お前も祈れよ、イルカの神様に。」僕は誰もいないのを確かめてから、用意した大量の牛乳を水槽に流し込み、フーにはぐったり演技させ、大騒ぎをしてまわった。フーは取り敢えず水槽の水を入れ返るまで、シャチのプールに移されることになった。

外のプールの縁は火山岩を高く積んでコンクリートで固められていた。すぐその外が防波堤になってはいるが、このあたりは遠浅で、砂浜が広い。海辺までは普段はゆうに100メートル以上はあるだろう。大潮で満潮になっても50メートルが関の山だ。たとえ台風が来ても、このプールまでは浸水しないように設計されている。波が堤防にまで届く可能性はゼロに等しかった。したがって、僕の計画もゼロに等しかった。でも、僕はこれに賭けるしかなかった。

次の日は風も強くなり早めの閉館となっって、僕も家に帰された。台風は確実にこちらへ向かっていた。満潮は午後8時だ。僕は夕食を早めに食べると、灯りと命綱を持って海に向かった。シャチのプールの外側からビッグウエーブを待つつもりだった。それをフーに伝える。プールの中からでは海は見えない。来るか来ないか分からない大波が来る瞬間をフーに伝える。その時、フーはありったけの力でプールから防波堤を越えて海に向かってジャンプする。「笑わないでよ、まるで、映画みたいだけど。」

僕は命綱を岸壁に結び、雨と風でずぶ濡れになりながらかすかな灯台の灯りが照らす波を見続けていた。神様なんて信じてもいないくせに、今はただ、神様だけが頼りだった。そして、僕の神様はどうだったか分からないが、イルカの神様はフーちゃんの願いを聞いてくれたようだ。見たこともないような大波が僕に向かって進んでくる。「おお、神様、ビッグウエーブだ。フー、来たぞ、来たぞ。今だ。スタートだ。ジャンプだ。飛べ、飛べ、飛べ。」フーがちゃんと飛んだのかどうか、まるで分からなかった。僕も頭から波を浴びて、とても目なんて開けてはいられなかったからだ。命綱にしがみ付き、喉の奥まで潮水を飲みながら、声を限りに叫んでいた。そして一度きりの大波は闇の中を静かに引いていった。

フーちゃん、良かったね。これでやっと、なんとか君との約束を果たしたよ。僕もやるときはやるもんだね。君のためと思って夢中になったことで、何かふっきれたんだ。これから進学のこともあるし、もう少しマジになってみようかな。
「お兄さん、本当にありがとう。もう会えないけど、お兄さんのこと忘れないよ。さようなら。」
沖の白波の一つが砕けて光り、頭の中でまたテレパシーを感じたような気がした。
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by 892sun | 2007-11-06 14:51

国民は大連立なんて望んじゃいない

参議院選挙で、何故あれほど国民の支持が得られたのか分かっていなかったのか、それをまさか自分の力だとでも思っていたのか、小沢ともあろう政治家が、福田のクリンチ作戦に乗せられて、このような失態を演じるとは信じられない。小沢という政治家をイマイチ信じてはいなかったが、変わったと思っていた。小沢は変わったのではなかったのか。これでまた、政権交代の時期は遠のきガッカリした人が多いのではないだろうか。やっぱりたいした政治家じゃなかったってことだ。辞めたけりゃ、カッコつけてないで、とっとと辞めろ。止めないよ。高い視点で見れば、そのほうが民主党にとってもいいはずだ。但し、子分連れて自民に戻るようなみっともないことをしたら、それこそ自滅、政治生命の終わりだ。国民を舐めてるんじゃないか、自惚れるなよ。

さて、以下のサイトの記事を読んで、だいぶ見えてきたぞ。

政治評論家、森田実氏のサイトから一部転載
***今回の大連立構想の背後に透けて見えるものがある。それは、日本の指導的政治家の「米国恐怖症」である。小沢一郎氏が初めは「テロ特措法反対」論を声高らかに叫びながら、福田首相との密室の会談において妥協の姿勢を見せた背景には小沢氏の「米国恐怖症」があるように思う。結局のところ、日本の保守政治家は、米国政府には逆らえない、逆らったら大変なことが起こるとの恐怖観念の虜になっている。***転載終

昨日の東京新聞にはナベツネと中曽根が会談したことが書かれている。ナベツネは昔からCIAのエージェントだ。おそらく、今、来日中のロックフェラーの意向を、小沢に伝えるための方策を練ったのだろう。小沢はこれを聞いて、福田との党首会談に応じざるを得なかった。

副島隆彦氏の今日のぼやきから一部転載
***真実とは、チェーニー副大統領(イラク戦争の最高責任者、ネオコン派を動かす総帥)が、怒り狂って、「私に刃向かう、日本の小沢をつぶせ。あいつの資金源を洗え。 日本の警察・検察を使って、逮捕させて、政治生命を奪え」と、命令を出したからだ。小沢一郎が、金丸信(かねまるしん)から受け継いだ大切な日本改革用の資金のことだろう。 

小沢一郎は、政治生命を狙われたのだ。命も狙われているだろう。それで、いつもの、私たちの日本国王の得意の手法に出た。さっさと椅子を放り出して撤退する作戦だ。死んだ振り戦術である。***転載終

国民が連立を望んではいないことぐらい、百も承知のはずなのに、こうした挙に出たということは、まだ命が欲しいということか。アメリカに逆らって長生きした政治家はいないからなあ、分からんでもないが・・・。命賭けて欲しかったなあ。
by 892sun | 2007-11-05 15:05

第14話 肉屋の留さん

へい、アタシが留吉ですが、旦那ですかい?アタシの話しなんかが聞きてえとおっしゃるのは。別に自分では変だとか思っちゃいねえんですが、変ですかねえ。世間にゃあ酒の飲めねえ酒屋だってゴマンとあるでしょうから、肉の食えねえ肉屋があったって可笑しかないと思いますがねえ。

いえね、子供の時分からダメだったてんじゃねえんです。むしろ大好きでした。ウチは貧乏で子沢山でしたから、一年に一回か二回、スキヤキにありついただけなんですけどね。そりゃあ嬉しかった。そのスキヤキもね、ダシが出る程度に二百か三百グラムのコマギレ肉が野菜の陰にこっそり隠れてるってなシロモノでしたね。末っ子の特権で、鍋の一番前に座って肉ばかり最初に食うもんだから、兄や姉に箸でこずかれながら食ったもんです。

中学出て奉公した先があの有名な但馬屋ってわけでして、勉強のほうはからっきしでしたし、これでたらふく肉が食えるってんで喜んで行きましたっけ。ええ、もちろん住み込みです。自分で言うのもなんだけど真面目に良く働きましたね。自分に合ってたんでしょうね。それで認められて暖簾分けしてもらったんです。25ん歳でした。それからずっと、旦那もご存知のあのアーケードで店やってきてるんです。

肉、食わねえようになったのは、カミさんもらって最初のガキが出来てしばらくたった頃でしたね。いや、その前にね、親会社の親睦旅行がありましてね。年一回暖簾分けしてもらった他の連中も集まるんです。普段は旅行なんか連れてってやれねえから、アタシゃカミさん連れて参加したんです。それで、その旅行のコースの中に、親会社の新しく出来た解体工場の見学ってのが入ってたんです。解体工場といえば聞えはいいが屠殺場のことです。その屠殺の現場まで見たわけじゃねえんだが、どうもその旅行から帰ってから家中の様子が変になっちゃった。

カミさんの寝言がひどくなって、うわ言とか言うんですかね、寝てて大きな声で喋りだすんですよ。どうも話しを聞いてみると、牛や豚のゾンビみたいなのがいっぱい現れて追いかけてくるってんですよ。それで眠るのが怖いようになって不眠症みたいになるし、日中もイライラしてるから客に愛想はなくなるし、アタシともすぐ喧嘩になるし、ガキはガキでしょっちゅう引きつけを起こすようになり、アタシはアタシであんなに好きだった肉を食うと戻すようになっちまったんです。

どうやら、屠殺場行ってからおかしくなったてえことははっきり分かってたもんですから、きっと牛や豚や鶏のタタリが出たんだ。こうなったら店たたんじゃおうかてなことまで考えたんですが、店は流行ってるし、今更商売代えるたって、出来やしませんや。それで、藁にもすがる思いで、ツテ頼って霊能者って人ですか、霊が見えるって人のところへ夫婦で行きましたよ。

その人が言うには、うちのカミさんは霊媒体質とか言うんですって。よく分からねえけど、そういうものに敏感で憑かれ易いんだそうで、屠殺場から迷っているのをいっぱい連れて来ちゃったらしいんですね。それで、その人にうちまで来てもらって、何やらオハライしてもらってウロウロしてる霊に行くべきところへお帰り願ったという次第です。

お陰さんで、それ以後はカミさんのうわ言もガキの引きつけも治ったんですが、アタシのは治らねえんです。よっぽど業が深いんですねえ。なにしろ若いときから肉を捌いてきたんですからねえ。まあ、しかし、他に能もねえし、商売換えってわけにもいかねえんで、そのまんま肉屋を続けてますが、あれからは、我が家はベジタリアンに宗旨換えってことになりやした。肉は食わなくても体の調子は悪くありませんし、まあ、肉を食わねえ肉屋ってのが一軒くらいあってもいいんじゃねえかなんて、思っております。へい。    おしまい
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by 892sun | 2007-11-04 14:26

第13話 無条件の愛 

修理していたトラクターがぐらっとゆれた瞬間、支えていたジャッキが跳ねて飛び、私はその下敷きになっていた。重い車体に胸をつぶされ、口からは血が噴出している自分がそこにいた。何故か痛みは感じなかった。自分で自分の無残な姿を呆然と見ていた。

私はそのあと竜巻のようなものに吸い込まれるようにしてトンネルのようなところを上昇していった。凄まじい轟音のようなものが聞こえた後、明るい光の差し込む出口が見えた。トンネルの外は眩いばかりの光に満ちあふれ、色とりどりの花が咲き乱れている花園だった。

花園の道をたどっていくと川が流れていた。川は澄み切って底の石までもがキラキラ光っていた。私は作業着の裾をまくって川に入り足をひたした。その時、
「その川を渡ってはならぬ。」という声は聞えた。

振り向くと、いつの間に現れたのか白髪の老人が立っていた。
「川から上がってこちらへおいで。お前に言っておきたいことがある。」
私は頷くと老人のほうに歩いて傍らに腰をおろした。
「お前の今生での使命は無条件の愛を学ぶことにある。お前とお前の妻は前世では敵味方に別れていた。お前の弟もまた敵であった。お前は彼らを捕らえ辱め、そして殺した。このたびの事は偶然起きた事故ではない。だから彼らを憎んではならん。許すのだ。許してやれ。そうして心から彼らを愛するのだ。それが成就出来たとき、お前の人生は完結する。」
その言葉を聞き終えた瞬間、老人と花園も消えて、私はどこかの病院の手術室にいた。

私は、私をあわただしく治療する医者と看護婦たちを天井付近から眺めていた。私を蘇生させるために医師たちの必死の努力が続いているのを、何の感情もなく見下ろしているのだ。すでに心臓は停止し脳波のカーブだけが弱弱しくオシロスコープの画面上で、まだ生命の糸が切れていないことを示していた。

手術室の外の長椅子には妻と弟がいた。二人は私のことを心配し悲しみに沈んでいる家族のように見えた。弟が何やら小声で妻に囁いていた。
「義姉さん、兄さんは絶対助からないよ。脈がないのを確かめてから救急車を呼んだんだ。大丈夫さ。あれは事故にしか見えないさ。これで義姉さんもやっと兄さんから開放されるね。同情することなんてないよ。自業自得さ。今までさんざん二人を使用人みたいにこき使ってきたんだから。」

私はそれを聞いて愕然とした。あれは私の不注意から起きた事故ではなかったのだ。ほとんど感情のないままだったのが、それを聞いて猛烈な怒りが込み上げてきた。私は拳をあげて弟に殴りかかったが、空を切るばかりだった。二人は私にはまったく反応せず、まるで恋人同士のように肩を寄せ合っていた。老人の言った言葉が頭の中を駈け巡っていた。

集中治療室で歓声が上がったのとほとんど同時に、私は激痛を感じた。痛みは体中を走り回り、その痛みに耐えられず再び気を失った。しかし肉体から離れることは出来ず、心臓は鼓動を続け、私は生き返ったのだった。

病院での生活は長いようであり、過ぎてみればあっという間だったような気もする。自分という人間についてこれまで振りかえってみたこともない私には良い時間だったのかもしれない。あの老人の言った言葉が頭から離れなかった。

妻と私は、出会った瞬間惹かれあうものを感じすぐに結婚した。私は意識より先に行動するような男だったのに対し、妻は何をさせても愚鈍な女だった。私はいつも彼女を叱りつけ、彼女はいつもメソメソして弟に愚痴をこぼしているようだった。弟はいつまでたっても自立できぬ優しさだけが取り柄のような男だった。早く親をなくした私たち兄弟だったから、いつも私が面倒を見なければと親代わりを務めてきた自負もある。私はいつも自分が正しいと信じて生きてきた。どこで、何を間違えてしまったのだろうか。何故こんなになってしまったのか。

私の退院を喜んでくれる者などいないことは分かっていた。私は家に戻ると二人を呼んで、家と農場の権利書を渡し、これからの経営と世話をしてくれるように頼んだ。二人は驚き、泣き崩れ、許しを乞た。あの老人から聞いたことは言わなかったが、許しを乞うのは私の方だと言った。そして、そのまま家を後にした。

私は家族というかけがいのないものと、生きがいだった農場の大きな二つのものを失った。それらを手放すことで、形だけでも彼らを許すことにした。しかし心から愛することなど今はとても出来ない。私が愛さなければ彼らに愛されるはずもない。もう一度人生をやり直すことは出来るのだろうか。どれほどの時間が必要なのだろうか。  終
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by 892sun | 2007-11-03 14:28

第12話 井の中の蛙

或る夏の日、蟻たちがせっせと巣穴に食べ物を運んでいた。そこへ急に夕立があって蟻たちの巣穴の横にも大きな水たまりが出来てしまった。蟻たちは食べ物を運ぶのに水たまりをぐるっと迂回しなくては帰れなくなってしまった。
「あーあ、こんな所に池が出来ちゃったよ。なんて広い池なんだ。これでは今日中に全部食べ物を運べやしない。困ったなあ。」

夕立大好きの蛙が浮かれて飛び出し、蟻たちの話しを聞いてこう言った。
「まあ、君達にとっては大きな池に見えるだろうが、本当の池なんてこんなもんじゃないぜ。僕の住んでる池なんて、この水たまりの何千倍もあるだろうな。どこまでも潜れるし、一回りするのには一日がかりさ。」

木の枝で獲物を探していた蛇が、蛙の言うことを聞いて飛び掛るのも忘れて自慢げにこう言った。
「愚か者が。だからお前たちは俺たちの食料になって当たり前なのさ。本当に広い池のことは湖と言うんだよ。俺が高い木に登って見た湖は、それはそれは広くて向こう岸が霞んで見えないほどだった。いいことを教えてやった代わりに俺の昼飯になってもらおう。」

蛇が蛙に飛び付こうとした瞬間、上空から舞い降りたトビが鋭い爪先で蛇を捕らえると、大きく羽ばたいて岩山にある巣まで運んでいった。食べてしまう前に可哀想だから教えてやるが、とトビは蛇に言った。
「お前の知識がその程度だから私に捕まる。お前の知っている湖から流れた水はどこと繋がっていると思うかね。世界にはもっともっと大きな海というものがあるのだよ。お前の体のようにくねくねと曲がりながら湖の水は海へ流れ込む。海より広い大きなものはない。その果てを見たものは誰もいないだろう。」
トビが自慢げに胸をそらした隙に、蛇はスルリと体をほどき逃げ出した。

やがて西空が朱く染まる中を雁の群れが見事なトライアングルを形作りながら渡っていた。
「我々ほど知識を持った鳥はいないだろう。東西南北も、地域によっての季節の変化も、そして地球が丸いということも知っている。」とリーダーが他の皆に語りかけた。


折りしも麓の町の大学では、アインシュタイン教授が招かれて、学生たちを前に自説である相対性理論の講演をしていた。
「しかるに、今までは光は真空中は真っ直ぐに進むと考えられてきましたが、重力の影響を受けると曲がるのです。宇宙は存在する全重力によって形作られていると考えます。もしも、もしもですよ。どこまでも見える望遠鏡があったと仮定して、宇宙の果てを見てみたら何が見えると思いますか?それは、その望遠鏡を覗いている者の後頭部が見えるのであります。」

今夜の教授の講演は大盛況だった。教授はいつまでも鳴り止まぬ学生達の拍手を思い浮かべながら、満足げに眠りに就こうとしていた。その時、どこからともなく教授に語りかけてくる声がした。
「いと小さき者よ、慢心してはいけない。あなた方の知る物質宇宙など私のほんの一側面にしかすぎない。科学を極めたなどと決して思うな。人間の知り得た知識など、無限の広がりを持つ叡智の泉の水の一滴にも及ばないのだよ」  終
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by 892sun | 2007-11-02 12:24

号外です。日本一、おめでとうドラゴンズ

ドラゴンズファンの皆さん、蒲郡の皆さん、おめでとうございます。今日はダルビッシュだったので、多分勝てないと思っていたけれど、山井がそれ以上に凄いパーフェクトピッチングで、9回も打たれるまでは投げさせるのかと思っていましたが、個人記録より勝つことを優先させて、最後は岩瀬で、継投パーフェクトだった。最後の最後まで楽しませてもらって、今年は素晴らしい年になりました。オッチャイさん、ありがとう。

しかし、長かったねえ、53年振りですよ。私は53年前、小学生で、スコアブックを付けていました。天池監督に魔球を自在に操った杉下さん、今も、杉並の下高井戸に住んでいますので、お見かけしたことあります。ドラゴンズが優勝した年は、天変地異があるというジンクスもありますが、さてどうでしょうか、ジョセリーノさん。
by 892sun | 2007-11-01 21:10



この世の仕組み、本当の生き方はもう分かりましたか?地球は次元が変わります。準備は整っていますか?心霊研究家のつぶやきに耳を傾けてください。
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